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「気づいたら、腰のあたりの毛が薄くなって、皮膚が赤くなっていた…」
寝たきりの愛犬を介護していて、そんな経験はありませんか。
それは「床ずれ(褥瘡/じょくそう)」のはじまりかもしれません。
床ずれは、一度できてしまうと治すのがとても大変です。
でも、逆に言えば、毎日のちょっとしたケアで、かなり防げるものでもあるのです。
この記事では、現役獣医師が、床ずれができる仕組みから、できやすい場所、初期のサイン、そして今日からできる予防とケアまで、やさしく解説します。
犬の床ずれ対策 早見表
先に、この記事の要点をまとめます。
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| できやすい場所 | 腰骨・肩・ひじ・かかと・頬など、骨が出っぱった部分 |
| 初期サイン | 毛が薄くなる・皮膚の赤み(押しても消えない赤みは要注意) |
| 予防の柱 | 体位変換(2〜3時間ごと)+体圧分散マット+清潔・乾燥+栄養 |
| できてしまったら | 赤みの段階で動物病院へ。自己判断の消毒・市販薬はかえって悪化のもと |
- 床ずれ(褥瘡)とは何か
- 床ずれができやすい場所
- なぜ寝たきりの犬にできるのか
- 見逃したくない初期のサイン
- 床ずれの予防法(いちばん大切)
- できてしまったときのケア
床ずれ(褥瘡)とは?
床ずれとは、体の同じ場所が長く圧迫され続けることで、皮膚やその下の組織がダメージを受けてしまう状態です。
寝たきりになると、自分で寝返りが打てません。
すると、床に当たっている部分の血のめぐりが悪くなります。
血液は、酸素や栄養を運ぶ大切な役目をしています。その流れが途絶えると、皮膚や組織が傷み、やがて壊れてしまうのです。
最初は皮膚が赤くなる程度。
けれども進行すると、皮膚が破れて傷になり、深くえぐれて、ときには筋肉や骨が見えるほどになることもあります。
そうなると細菌が入り込み、全身に影響することもある、あなどれない症状なのです。
床ずれができやすい場所

床ずれは、骨が出っぱっている部分にできやすいのが特徴です。
寝ているとき、体の重みは骨が出っぱった場所に集中します。
すると、そこの皮膚は骨と床のあいだにはさまれて、押しつぶされた状態に。しかも骨の上は、クッションになる筋肉や脂肪が薄い場所。だから血のめぐりが止まりやすく、床ずれの発生地点になってしまうのです。
- 頬骨(ほおの骨)
- 肩(肩甲骨のあたり)
- ひじ
- 腰骨・足のつけ根(大きな骨が出っぱる部分)
- かかと・くるぶし
とくに、痩せて骨ばってきた老犬は要注意です。
クッションになる筋肉や脂肪が落ちて、骨が直接あたりやすくなっているからです。
犬の床ずれの原因:なぜ寝たきりになるとできるのか
健康な犬は、寝ているときも無意識に何度も寝返りを打っています。
だから、同じ場所が圧迫され続けることがありません。
ところが、足腰が弱ったり、麻痺があったり、体力が落ちたりして自力で動けなくなると、ずっと同じ姿勢のまま。
体の重みが、いつも決まった場所にかかり続けてしまいます。
つまり床ずれは、「年を取ったから」起きるのではなく、「動けなくなって、同じ場所が圧迫され続ける」から起きるのです。
だからこそ、飼い主さんの手で長時間の圧迫を減らしてあげることが、何よりの対策になります。
獣医さん寝たきりになった子で、いちばん多い相談のひとつが、この床ずれです。しかし、こまめな体位変換とマットの工夫で、かなり防げます。
「できてから治す」より「できる前に防ぐ」。これが鉄則ですよ。
犬の床ずれの初期症状:見逃したくないサイン


床ずれは、いきなり大きな傷になるわけではありません。
早く気づけば、それだけ軽くすみます。
- その部分の毛が薄くなる、抜ける
- 皮膚が赤くなる(押しても赤みが消えない)
- 皮膚が硬くなる、ごわつく
- 皮膚がジュクジュクしてくる
- 皮膚が破れて、傷になっている
「赤くなっているだけ」の段階で気づけるかどうかが、大きな分かれ道です。
毛が長い子は気づきにくいので、手で触って確かめるのもおすすめです。
犬の床ずれの予防法5つ(いちばん大切)
床ずれは、できてしまうと治療が長引きます。
だからこそ、予防がいちばん大切なのです。
今日からできることを、5つ紹介します。
① 体位変換(体の向きを変えてあげる)
いちばん基本で、いちばん効果的なのが、定期的に体の向きを変えてあげることです。
目安は、2〜3時間ごと。
横向きで寝ている子なら、反対の横向きにしてあげる。同じ場所が圧迫され続けるのを防ぎます。
さらにおすすめなのが、クッションで体を支えて「伏せ」の姿勢も取り入れること。
向きのパターンが「右下・左下・伏せ」の3つに増えるので、そのぶん1か所あたりの圧迫時間を減らせるのです。自力で伏せを保てない子でも、胸の下にクッションをあてがったり、伏せ姿勢を支える介護用ベッドを使ったりすれば、無理なく姿勢をキープできます。
ただ、実際にやってみると気づくのですが、寝たきりの子には「好みの向き」があります。
「右を下にしないと落ち着かなくて、ずっと鳴いてしまう」——そんな子もめずらしくありません。
しかも、嫌いな向きにされた子はバタバタともがくことがあり、その擦れが、かえって皮膚を傷つけてしまうことも。体位変換のつもりが床ずれの引き金になっては本末転倒です。
- クッションを少し厚めにして、完全な横向きにせず、頭を少し上げた体勢にしてあげる
- なでたり、声をかけたりして安心させてあげる
- 暴れて擦れていないか、そばで注意して見守る
そして、いつも下になりがちな「好みの向き」の側は、クッションでの保護と皮膚のチェックをいっそう念入りにしてあげてください。
また、なかには頭を高くして視界が開けると、落ち着いて眠れる子もいます。まわりの景色が見たいのかもしれませんね。



クッションで頭の位置を少し上げてみるなど、「どの体勢なら、この子は安定して寝てくれるのか」を探してあげることが大事。
それ自体が、立派な床ずれ予防のケアなのです。
そして、支えれば少しでも立てる子なら、1日のなかに「立つ時間」もつくってあげましょう。
立っているあいだは、体のどこも床に圧迫されない、いちばんの床ずれ予防タイム。それだけでなく、少し体力を使うことで夜ぐっすり眠れて、夜鳴きの時間が減ることもあります。
立たせるときに心強いのが、足元の滑り対策です。
弱った足腰は、床で足が滑るだけでバランスを崩してしまいます。滑り止め靴下を履かせてあげると踏ん張りが利きやすくなり、立つ時間を安全に支えられます。


「夜中もやるの?」と負担に感じるかもしれません。
無理のない範囲で大丈夫です。次に紹介するマットを併用すれば、その分、負担を減らせます。
② 体圧分散マット(圧を分散させる寝床)
体の重みを一点に集めない、やわらかい寝床を用意してあげましょう。
- 低反発マット
- エアマット(空気で体圧を分散するもの)
- やわらかいクッションや毛布を重ねる
骨が出っぱった部分にクッションをあてて、床に直接あたらないようにするのも効果的です。
ここで、身近なものを使ったおすすめの工夫をひとつ。
皮膚が赤くなって「床ずれになりそう」という場所には、赤ちゃん用の授乳パッドを当ててあげてみてください。やわらかくて小ぶりなので、局所のクッションとしてちょうどいいサイズ感。



薬局で手軽に買えて、汚れたら使い捨てできるのでおすすめです!
なお、「患部を浮かせられそう」とドーナツ型のクッションを選びたくなるかもしれませんが、注意が必要です。
真ん中の穴で患部は浮いても、そのぶん体重は「ふち」に集中します。
つまり、患部のまわりをリング状にぐるりと締めつける形になり、血のめぐりがかえって悪くなって、床ずれを悪化させてしまうことがあるのです。使う場合は、あて方をかかりつけの先生に相談してみてください。
③ 皮膚を清潔・乾燥に保つ


これは、見落とされがちですがとても大切なポイントです。
おしっこやうんち、よだれで皮膚が濡れたままになると、皮膚がふやけて弱くなります。
弱った皮膚は、ちょっとの圧迫でも傷つきやすく、床ずれが一気に悪化してしまうのです。
排泄のあとはやさしく拭き取り、しっかり乾かしてあげてください。
おむつを使っている場合は、こまめに替えて、ムレを防ぐことが大切です。



お風呂はなかなか難しいと思いますが、ドライシャンプーや、シャンプータオルという選択肢もあります。出来る範囲で清潔にしてあげて下さい。
→ 関連記事:【獣医師解説】老犬の尿漏れ・失禁ケア完全ガイド
④ 栄養をしっかりとる
意外に思われるかもしれませんが、栄養も床ずれと深く関わっています。
体の材料となるタンパク質が足りないと、皮膚が弱くなり、傷の治りも遅くなってしまいます。
食が細くなりがちな老犬こそ、しっかり栄養がとれているか、気にかけてあげてください。
食事の内容に迷ったら、かかりつけの先生に相談するとよいでしょう。
⑤ やさしいマッサージで血行を促す
骨ばった部分のまわりを、やさしくなでてあげると、血のめぐりがよくなります。
スキンシップにもなり、愛犬も安心します。
ただし、すでに皮膚が赤くなっていたり、傷ができていたりする部分は触らないでください。
かえって悪化させてしまうことがあります。



おしっこやうんちで皮膚が湿ったままだと、本当にあっという間に悪化します。「圧迫を減らす」「清潔と乾燥を保つ」「栄養をとる」。この3つを意識するだけでも、床ずれのリスクはぐっと下がりますよ。
犬の床ずれの治し方:できてしまったときのケア
「気をつけていたのに、できてしまった…」
そんなときも、自分を責めないでください。寝たきりの介護で床ずれを完全に防ぐのは、プロでも難しいことなのです。
そして、知っておいてほしいことがひとつ。
年をとった体は、寝たきりかどうかにかかわらず、若いころに比べて傷の治りが遅くなっています。若い犬なら数日でふさがる傷も、老犬ではなかなか治らない——床ずれが「できてから治す」のが大変なのは、このためでもあるのです。
だからこそ、大切なのは早めの対応です。
✅️ごく初期(赤みだけ)の場合
その部分への圧迫を避け、清潔と乾燥を保ちながら、悪化しないか様子を見ます。早く対処できれば、それ以上進まずにすむこともあります。
✅️皮膚が破れて傷になっている場合
床ずれの傷は、見えている傷口よりも広い範囲がダメージを受けていることが多く、皮膚の奥に膿がたまっていることもあります。表面だけを見て「小さい傷だから大丈夫」と判断するのは危険です。
自己判断で消毒をしすぎたり、市販の薬を塗ったりするのも、かえって治りを妨げることがあります。
できるだけ早く動物病院に相談してください。傷の状態に合わせて、壊れた組織の処置や、感染を抑える治療、専用の被覆材(傷を保護する材料)などを使ってケアしていきます。



一度できた床ずれを治すのは、本当に根気がいります。深くなると、治療に何週間、何ヶ月とかかることも。だからこそ、軽いうちに相談してほしいのです。「これくらいで病院に行っていいのかな」とためらわず、赤みの段階でぜひ見せてくださいね。
よくある質問
- 体位変換は、夜中もやらないとダメですか?
-
理想は2〜3時間ごとですが、飼い主さんが倒れてしまっては本末転倒です。エアマットなどの体圧分散グッズを併用すると、向きを変える間隔を少しのばせます。無理のない範囲で続けることが、いちばん大切です。
- ドーナツ型のクッションは効果がありますか?
-
真ん中の穴で患部の圧迫は逃がせますが、そのぶん体重が「ふち」に集中し、患部のまわりをリング状に締めつけて血のめぐりを悪くしてしまうことがあります。使うかどうか、あて方も含めて、かかりつけの先生に相談すると安心です。
- 床ずれは自然に治りますか?
-
ごく初期の赤みだけなら、圧迫を避けることで改善することもあります。ですが、皮膚が破れて傷になったものは自然には治りにくく、悪化しやすいので、動物病院での処置が必要です。
- 痩せている子は、やはりできやすいですか?
-
はい。筋肉や脂肪が落ちて骨が出っぱると、床ずれができやすくなります。栄養をしっかりとることと、骨ばった部分をクッションで守ることが対策になります。
まとめ:犬の床ずれは「できる前に防ぐ」が鉄則
老犬の床ずれは、寝たきりの介護で多くの飼い主さんが直面する悩みです。
- 床ずれは、同じ場所が圧迫され続けて、血のめぐりが途絶えることで起こる
- 骨が出っぱった部分(腰骨・肩・ひじ・かかとなど)にできやすい
- 毛が薄くなる・赤くなる、という初期サインを見逃さない
- 予防の柱は「体位変換」「体圧分散マット」「清潔と乾燥」「栄養」「血行」
- できてしまったら、軽いうちに動物病院へ
床ずれのケアは、毎日のことで大変かもしれません。
でも、その一つひとつが、愛犬の痛みやつらさを減らしてあげることにつながっています。
ひとりで抱え込まず、気になることはかかりつけの獣医師に相談しながら、できる範囲で続けていきましょう。
寝たきりになっても、愛犬が少しでも穏やかに過ごせるように。
この記事が、その毎日のお手伝いになれば幸いです。
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